カンタリス・3










「アルバ公爵・・ねえ・・・」
まるで子供のように軽食(?)の最後に出されたドルチェ(デザート)を 口に運びつつ。
まるで先ほどの話など聞いてなんかいなかったように思えたガウリイがやおら口を開 く。
「・・・知ってのか・・・???」
さも意外、というようにゼルが未だにのほほんっと李のジャムがたっぷりと掛かった 甘いフランドル製品の歌詞を食べるガウリイに問い掛ける。
「ああ・・・酒の名前なら・・・・」
「・・・なるほど・・・」
その解答に・・かなり的外れではあるようだが・・・一応の納得を示すゼル。
「・・・どう言う事なんですか〜〜???それに・・アルバ公爵と言えば・・・。 悪名名高い殺人鬼として未だに有名な極刑犯罪者じゃないですか!!!
確かに身分の 大して高くない女性を次々と妻として・・挙句に殺害しただけあってその女性の大半 の名前は今では風化していますが・・・」
「そうですわ・・・・。何を思ったかガイリアの末娘の姫を彼は12番目の妻に選び ・・あまつさえも最も残忍な方法で殺害して足がついて・・・」
アメリアの説明に更にシルフィールが続ける。
「ええ・・・。それで悪事が完全に露見し、セイルーン、ガイリア両国の捜査に完全 に引っかかり。
エルメキア皇帝自らが火刑に処したあの犯罪公爵でしょう?
それに・ ・父ちゃん。アタシに叔母さんが居た事や・・ましてや・・・彼女がその犯罪者の手 に掛かって死んだなんて・・・」
リナの抗議するような声に彼はアッサリと。
「言ってねぇし、知るはず無いだろ?あんまり外聞の良い話では無いしな・・・。
まあ・・・切り刻まれ見るも無残な妻、あまつさえ不貞の罪を捏造され処刑台に送ら れた妻が多い中・・アイツは毒殺だ・・・。まだしも運が良かった・・・・」
何処か遠い目をしながら彼はそうとだけ呟いた。
「・・・アルバ公爵・・酒は精神錯乱を起す効果がある強い酒だ・・」
カオを僅かに顰めながらリナの父の話の続きをゼルが語る。
「・・・・・確か・・・カンタリスを使っている・・との話でしたわ。
無論、そんなモノを大量に摂取すればどうなる事か・・・傭兵などの家業を生業とす る人たちが精神的苦痛から逃れるため、好き好んで愛飲するお酒で・・・。非常に危 険と叔父から聞かされていますわ・・・」
思い出したかのようにシルフィールが付け足す。
「・・・確かにあんまり良いモンじゃぁないな・・・それに。伝説の殺人者の名前が つけられてるとなれば・・・なお更だな・・」
ふっと・・・・。
ガウリイまでもが何処か遠い眼差しをしながらそう呟いた。
もともとは・・・・。
彼もそんな傭兵の一人であったと言う事実がここにまざまざと蘇ってくる。
「・・・言ってくれるな・・まあ、良いや・・・」
美味しいところを持っていかれた為だろうか、少し苦笑しながらリナの父。
「で。父ちゃんはどうしたのよ??」
多少怯えながらもリナはそのときの父のことをはじめて聞いて見ようという気持ちに なる。
ふっと周囲に気配を巡らせれば・・・。
既に聞かされていて全てを知っているのだろう。
気を利かせてルナは席をはずしていたらしかった・・・。
そんな事を考えながら・・言い訳だろうと・・・自己弁護だろうと構わない。
百年の時を待つかのような思いでリナは父親の次の言葉を焦がれるように待った。
が・・・その時は余りにも・・そして早くあっけなく・・・。
「狂った・・・・・・」
事も無げに父親は娘を目の前にしてそんな一言を言い放った。
「く・・・狂ったって・・・その意味がわかってるんですか!!??」
取り繕うように、とも焦ったようにとも見える毎度お馴染みのポーズでアメリアが ビシっとリナ父を指差し、そして絶叫する。
「・・・アメリア嬢ちゃん・・・あのなあ・・・人を指差す悪癖は直せって・・・。
言われなかったか・・・???」
少し呆れたように微笑みながらそれこそ事も無げにそんなことを言い返すリナ父。
が、アメリアも引き下がらない!!
「ともかく!!おじ様!!狂ったなんて!!そんな言葉を口にするのは正義に反する ことですよおおおおお!!!」
マトモに焦りながらも決して自分の意見を曲げないアメリアに更に彼は苦笑した。
「まったく・・・本当にオヤジさんにそっくりだなあ・・・カオ以外は!!」
クククっと彼は面白くて仕方が無い。
そんな笑みを今度は浮かべるのだった。
「フィルさんにも・・・同
じ事言われたの?父ちゃん・・・」
さしものリナも・・・。 この父とアメリアの父・・・その出会いはまったくもって予想出来ない珍妙な光景で あった・・・・。
まあ、この際そんな細かいことはどうだっていいのだが・・・・。
「ま〜〜な・・・。当事ヤツはアルバ公爵のヤローのことを必死で父王とともに 洗おうとしていた・・・。そしてその白羽の矢が・・・」
「・・あんたの妹・・リナの叔母さんに当たったって・・フィルさんは突き止めたん だな?」
今まで沈黙して呆けたようにお茶を飲んでいたかのように思えたガウリイが不意に父 に質問を返す。
「・・・ちったぁノ〜ミソ活性化しやがったか?まあ・・・良いけどい・・」
何処か遠い目をしながらリナ父がガウリイに切り返す。
「まあ、な。俺の故郷も・・アルバ公爵と同じだし・・・エルメキアであの酒を飲む のは半ば犯罪行為とされている・・・」
まあ・・・昔の事はどうでもいい・・・。
二人の間にそんな気配が漂った。
「けれども。何でアルバ公爵はそんな大罪を犯したんでしょう?信じられません!」
先ほどまでの虚脱状態から復活したアメリアは今度は事件の張本人。
殺人鬼である・・今は灰となって消え去ったかつて存在した・・・であろう人物に怒 りは向けられた様子だった。
「・・・理屈じゃ犯罪人の心理など分からないだろう・・・?」
いとも簡単にアメリアの怒りに答えるゼル。
「まあ・・・人間なんてそんなモン・・。と言い切ってしまえばそれもソレまでだけ どね
。けど・・『病んだ血』と言う事も。父ちゃん達が若い時節なら充分に考えられ る事よ?
アメリア・・。まあ・・どちらかと言えばお家騒動あれども自由な気風のセ イルーンでは無害だったとは思うけど・・・」
どいちらかと言えば概念的にリナはアメリアに返答する。
無論、ゼルの味も素っ気もない返答よりかはアメリアとしてはリナのこの答えのほう に興味を持ったらしかった。
「正義の論理だけではなんともならない事なんですか?リナさん・・・?」
「先天的って言葉知ってる・・・??」
ふっとリナの言い出した言葉にさしものアメリアも少し小首をかしげた。
「・・・TPOにもよりますね・・・・」
少々戸惑ったようにアメリアはリナに返答する。
「この場合はまさにその意味のまんまよ。もともと王族や貴族ってその血統を損なわ ないようにするために・・
二重にも三重にも・・意図的に同じ血筋の婚姻が繰り返さ れれるのよ。・・・
本人たちの気持ちなんて無視してね・・。どこぞの貴族のハプス ブルクと・・
これまたどこぞの貴族のヴィッテルスヴァッハの家は100年間に14 回も婚姻が重ねられているというじゃない・・・?」
「・・・そうなると・・子孫の遺伝子にも異常が生じてくる・・と言うわけですわね ?」
リナの言わんとしていることを察したシルフィールが早速言葉を被せる。
「そう。それ故に・・悪影響で精神面が尋常でなくなる事もあるのよ。この場合・・ ・・・本当に何もいえたものではないわ・・」
指をかみながらリナは悔しそうにそう答えた。
「止めろよ。リナ。答えなんてそう簡単に出るものじゃないだろ?指から血が出たら ど〜するんだ・・・??」
難しい話は嫌いなガウリイまでも事の重さを感じ取ったらしい。
それとなくリナを慰める。
「ま・・・そ〜ういう訳だ・・・。最も・・俺が狂ったのは・・・」
それは何故だったのだろうか・・?
妹を失ったこと・・全てへの憎しみ・・・。
そして・・・・・・・・・・。
「最大の過ちを貴方はおかしそうになってしまった・・・。そうよね?父さん」
「うおわあ!!!」
何時の間にか現れたルナに先ほどまでの緊張感は何処にいってしまったのだろう?
驚いたリナ父は思いっきり座っていた椅子から転落し・・・・。
盛大な音をたてて尻餅をついた・・・。
「ね・・・姉ちゃん・・・・(汗)」
「暑いでしょ?リナ。カキ氷を作ってきてあげたわ。貴方はソーダとイチゴ・・どっ ちが良い?」
ニッコリと微笑みながらルナはそれぞれに大盛りフラッペを渡していく。
「あ・・・アタシ・・イチ
・・」
「俺イチゴ!!!」 リナが言うよりも早くガウリイが横から割り込み、アッサリとイチゴ味のフラッペを 掻っ攫っていく!!
「こらあ!それはアタシの!!!!!」
「大人しくソーダ食べなさい!リナ!はい、父さん。ジンジャーのカキ氷!!」
「・・・って・・てめぇ・・ルナ・・・・しょ〜がかき氷なんて寄越しやがって・ ・」
悔しげなリナ父の声が響き渡った・・・・。


最愛の妹を殺された・・・・。
その気持ちはよく分かる・・・・。
血に塗れた花嫁衣裳が床に無残に崩れ落ちていた。
その花嫁衣裳を身に纏っていた女は・・既に跡形も無く切り裂かれてしまっているだ ろう。
『王族の人間の『蒼い血』は不死のクスリの材料になる』
そんな下らないデマが巷の魔道士の間に流行り始めたのはほんの数ヶ月前。
イカレた研究をしでかしていた一人の魔道士がそんなレポートを協会に提出してから の事だった。
いかに傭兵とは言え・・いいや、傭兵だからこそ。
彼はそんな些細な社会の情報にまで耳を研ぎ澄ましていた。
『傭兵隊長』の身分を棄て・・そして・・『領主』の認知していない非嫡子の身分を 棄て。何処へ行くとも無くさ迷って既に何ヶ月になるだろう?
知らないうちに彼の足は・・妹が無残に惨殺された土地、エルメキアへとやってきて いた。ここの皇帝は無能で知られる人物だった。
聡明な若い息子・・・すなわち皇太子が即位すれば少しは世の中変わるんじゃないだ ろうか?
只の旅人である彼にすらそんなことを考えさせるような場所であった。
光の剣を継承する一門にこの国は牛耳られていると言っても過言ではない。
そして・・・その貴族仲間が問題の『アルバ公爵』なのである・・・。
もっとも今回の事は光の剣の継承者一門は関与していない事は明白・・・。
ほとほとどうでも良い・・・。
そんな言葉が似合う情景の連続な毎日であった。
「馬鹿馬鹿しいやな・・・・」
苦しげに彼は言い捨てて獲物の剣を腰に括りつけ・・・。
数日前から滞在していた宿の一室から気晴らしに散歩に出ることを決意した。
趣味のつりもココ暫くしていない・・・・。
まあ、最愛の妹が最期を無念の思いで迎えたこの土地でそんな事をする気には
なれなかったのだが・・・・。
せめて・・彼女が絶望しながら見たであろう景色だけは・・目に焼き付けておきた かった。
・・・・リュクレース・インバース・アルバ公8番目の夫人ココに眠る・・
簡素に彫られた墓の碑文の後半部分を彼は乱雑に削ぎ落とした。
彼女に対する冒涜以外の何者でもない文章だったからだ。
束ねた長い黒髪がさああああああああああ・・・っと吹き抜けた風に揺れた。
「・・・???」
風花がはっきり言って己の黒髪以上に鬱陶しかった。
「あれは・・・???」
目にした豪華絢爛な行列に暫し彼は見とれ・・誰にとも無く問い掛ける。
「・・アルバ公の12番目の奥方・・いいや・・・。犠牲者ですよ・・」
ふっとすぐ隣を見上げれば・・・。
年老いた墓守であろう・・何処と無く寂しげな様子を漂わせた老夫婦が佇んでいる。
「・・・どう言う事だ・・・・?」
剣呑になりそうな目つき、怒気を含みそうな言葉を押さえつつ彼は二人に尋ねた。
「ディルスはガイリアの姫様です。お可愛そうに・・・彼女はアルバ公爵に金で買わ
れたも同然の御身。今・・ディルスでは・・何よりも軍資金を必要としている・・ ・」
まあ・・あんなカタートなんぞという物騒なモンを抱えていればそうだろう・・・。
だが、今の彼にはそんなことはどうでも良かった。
「あの姫は・・あの公爵の嫁になるのか・・・???」
「恐らく・・最も残忍な殺害をされてしまうでしょう・・・。皇帝がもっと・・しっ かりしてさえいれば・・・。
ガブリエフ一門に不和さえ起こらねば・・・」
頭を抱えたように老夫婦は嘆いた。
が、今の彼にはそんな二人の嘆きすら煩かった。
「・・・何がわかるんだ・・あんたらに・・」
何がわかる・・・???そう心の底から叫びたかった。
「・・・分かりますよ・・・」
が、二人はそんな彼の激怒かに真正面から向き合ってキッパリと答えた。
「私たちの孫娘・・恐らく貴方の妹様よりも・・生きていれば多少の年上・・・。
しかし、当事はそれよりも小さかったでしょうね・・・。私たちの娘が貴族に見初め
られ・・あの子・・マルグリッドを産み落としました・・」
見れば・・端のほうに小さく『マルグリッド・ド・ヴォロア』と彫られた墓があっ た。
「貴族の私生児嫁にする・・あの殺人鬼の最初の犠牲者は・・わたしたちの小さな孫 ・・マルゴだったのですよ・」
悲しげに答える二人を背に・・。彼は何もいえなかった・・・。
無言で走り・・そして何処へとも無く駆け出して行った・・・。
そして・・・気がついた時には・・・。


「無残なことを・・しやがって!!!!」
そこには怯えた瞳で此方を眺める・・・一人の男が居た。
その手は血に塗れ・・・そして・・女の髪の毛が床には散乱していた。
血に塗れた花嫁衣裳・・・。かの王女の姿・・・この男の妻はもう何処にも居なかっ た。
グイ!!!!!!!
怯えきった男・・・アルバ公爵の顔を彼は強引に持ち上げた。
かなり長身の部類に入るこの公爵だが、更に彼の方がこの殺人鬼よりも頭一つ分背丈 が高かった・・・。
結果・・怒りの余り首を締め付けるようにし、片手だけでこの公爵を持ち上げ・・ ・。
強いて言えば宙に吊るした形となっていた。
更に黒髪の彼の形相に公爵は明らかな怯えを示していた。
その手に握られた剣は・・血にぬれている。
恐らく・・いいや・・分かりきった事だがこれはアルバ公爵を守るはずであった護衛 たちの血である。
「た・・・助けて・・・」
なおも逃げようとする公爵を彼は乱暴に床に叩きつけ・・そして残忍な笑みを浮かべ た。
「安心しろ・・・痛みは無い・・だがな・・・死ぬより苦しい地獄を見やがれ・・」
言うなり彼は・・最愛の妹の姿が裏面に彫ってある黄金のペンダントを無造作に開い た。
明いた方の手で食卓の上に銀色の光で輝くグラスに盛られたワインを取り出し・ ・・。
ペンダントから取り出した白い粉をその中に乱暴に注ぎ込む・・・。
「ぎゅぁ・・・ふあ・・・があああああああ!!!!!」
強引に公爵を仰向かせ。その口内に乱暴に彼はワインを流し込む。
・・・真坂・・使うときが来るとは思わなかった・・・・・・・・・。
そう・・・これは・・・決して証拠を残さない・・インバースの家に伝わる毒薬・ ・。
苦しむがいい・・・
今の彼は確実的に狂っていた・・・。


「なんと言う事をしたんだ!!!!!」
呆然と動かなくなった公爵を彼が見下ろしていたその刹那だった。
不意に後ろから見知ったような・・・知らないような声が聞こえてきたのは。
振り向くのは少々億劫だったが彼は無言で其方に視線を走らせた。
「あ・・・あんた・・・」
何時しか彼のもとに大量な金を持ってきて・・雇われないか?と持ちかけたむさくる しいカオの黒い髪の男だった。
「・・・ワシはセイルーンの第一王子・・・」
「ふ〜ん・・・フィリオネル殿下・・か・・・」
鼻持ちなら無いとは思っていたが・・やっぱりそうだったか。
捕まえるならさっさと捕まえて自分を火あぶりにでも何にもでして欲しい。
そんな思いを込めながら彼はこの男の方を凝視した。
が・・・・その口から発せられたのは意外な一言だった。
「・・王族の娘の殺害は疑いの無い事実。この男の余罪はいずれ露見するだろう・ ・。
従って・・『アルバ公爵』を火あぶりにする!ま・・・多少過激なようで主義には反 するが・・・。エルメキア皇帝からも追って沙汰があるだろうな・・」
ニヤリっと不敵な笑みを漏らしつつフィリオネルは彼にそう告げた。
「・・・俺は・・・???」
「さあ?何故傭兵がもぐりこんで追ったかは不明だ。ともあれ・・そなたにはまだ頼 みたい事がある・・。
と、ある令嬢を救って欲しいのだ・・。アルバにはパンプロー ナという弟がおってなあ・・・
そやつも今、この兄と同じような犯罪に手を染めつつ あるのだ・・」
「へえ・・・・。で、俺の役割は・・??」
「救うのはかの財閥、『メディシス』家の令嬢。某国の領主の私生児とは言え・・息 子であるそなたとの『偽装結婚』にて。
パンプローナとの婚姻を阻止して差し上げた いのだ!」
「ふ〜ん・・・鼻持ちなら無い財閥の令嬢・・か・・。まあ、どうせ死ねないなら構 わないぜ・・乗ってやる・・・」
かくして・・運命の時は訪れようとしていた・・・・。











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