カンタリスの残り香2







「でねでね〜〜〜リナってばあ〜〜〜!!」
「やめてえええ!!姉ちゃん〜〜〜!!」
「い〜じゃね〜かあ・・俺もっとリナの昔話聞きたいぞ?」
「でも・・以外ですね・・・リナさん、昔はお昼寝するの怖がったなんて・・・」
彼が釣りから戻ったとき。
娘二人を始めとする若い連中は未だに話に昂じていた。
既に鉄板に大盛りに盛られた食べ物は跡形無く消え去っていた。
まあ・・娘のリナ・・そして知人(あくまでも知人!!)のガウリイの食欲を考えれ ばそれは自然の摂理・・なのかもしれないのだが・・・。
それはさて置き。
「よお〜お前ら。楽しんでるか〜〜・・」
何気ない風を装ってリナとガウリイの間に彼は割ってはいる。
少しガウリイが面白く無さそうな顔をするがそんな事知った事ではない。
「父ちゃん!酷いのよ!!!」
ルナにばらされたくない事を暴露されまくったのだろう。
娘のリナが泣きつきように彼に縋り付いて来る。
「ま〜ま・・・そう泣くなよ。俺が釣った魚、捌いてやるから!!」
宥めるようにその娘の赤い・・・ストロベリーブロンドを思い出させるような栗色の 髪を彼は撫ぜてやる。
「・・・・買った・・魚の間違いじゃないのか・・・?」
ボソリっと・・・彼の隣に居座った金髪の男・・すなわちガウリイが痛いところをつ いてくる。
「・・・言ってくれるじゃね〜〜かあ・・・」
ワザト娘には気がつかれないように(しかし、長女には確実に気付いている)剣呑な 眼差しをこの金髪天然男に送るが・・・。
「俺・・なんっか変なこといったかあ・・・?」
あくまでしらばっくれやがるらしい・・・。
まあ、良い。最終報復手段はある・・・。
「ほ〜〜ら、捌けたぞ!!」
ワザト愛想良く彼は腰に括りつけていた剣で魚を捌き・・・そして・・・。
「・・・ああ〜〜〜!俺の分だけすっごく少ないぞ〜〜〜〜!!」
ガウリイの抗議の声に彼はかすかに微笑んだ。
必死でしょうゆをつけて魚の刺身を食べる娘・・・。
「やれやれ・・・昼寝が嫌いなところといい・・そ〜がっついたところといい・・ ・。
本気で似ていね〜〜なあ・・・」
ボソリっと呟き彼はあらぬ方向に視線を移す。
「・・・似てない・・?リナって母親に似てるんじゃないのか・・?」
「馬鹿。俺に似てると言え!まあ・・性格には俺の妹に・・だな・・・」
ふっとガウリイの質問に遠い目をしながら彼は答える。
と。その刹那・・・・。
「ああ〜〜〜!リナさん!お刺身をそんなにガツガツ、人の分まで食べて!
悪です!悪です!悪です〜〜〜〜〜〜!!!!」
「煩いわよ!アメリア〜〜!!って・・・ぐぐぐ!!!」
まともに喉に刺身を詰まらせたリナに先ほどまでは呆れていたアメリアだったが。
「ほらほら・・・大丈夫ですか〜〜?」
慌てたように彼女の背中を撫ぜる。
「リナさん・・・がっつくからですわ・・・・」
「まったくだ・・・」
シルフィールとゼルは完全に呆れているといるのに・・・優しい限り・・。
いや、下手すれば『お節介』ともいえるその行動。
再度彼はそんなアメリアと娘の姿に苦笑した。
「あ〜あ・・。あのセイルーンのお姫様・・・まったくもってオヤジに性格だけそっ くりだな。カオは似ても似つかねえが・・」
ボソリ・・っともらしたその一言だが・・・。
ピクリ!!
先ほどまでむせ返っていた娘の耳がピクリ!!と反応する!!
そういえば・・・リナのエルフ並の聴力についてすっかり忘れていた・・。
「どう言う事!!父ちゃん!あの最強無敵の王位継承者さまをしってるのおおお!! ?」
カオに動揺した色を浮かべつつリナはずずずと彼から後ずさる。
「リナさん〜〜〜・・・それ。ど〜ゆ〜意味です〜〜??」
ジト目でアメリアがそんなリナの行動を僅かに咎めつつ言う。
「・・・・へえ。あんた・・フィルさんと知り合いだったのかあ〜〜?」
今まで存在を忘れ去られた腹いせとばかりに今度はガウリイが彼に尋ねる。
「・・・あ〜んま・・・・外聞のいい思い出じゃないがな・・」
リナにそっくり『だった』美しいあのリュクレース・・・。
そして・・時の権力・・・実の父親の策謀。
自分はその渦中だったのだろうか・・・??
それとも・・・何も知らず中心を駆け回る喜劇役者の一人だったのだろうか?
今となってはそれを知る由も無い過去の出来事・・・。
まあ、どうだっていい。
それは同じ言葉でも違う意味で今は言える昔と同じ言葉・・・。
何を考えていたのだか知らないが・・・。
あのお節介な『おうぢ様』に出会わなかったら確実に今の自分の命は無かっただろ う。
そして・・・・。
必然か偶然か・・・。
『あの』出会いがこの運命を形作ってくれている。
「あんた・・・昔は傭兵といったが・・・」
ふっと遠くを眺めつつガウリイがまたもや考え中の彼に声をかけてくる。
「ん・・・???」
上の空で彼は辛うじてその言葉に答える。
「・・・随分違う系統。それだけは確かだろ・・・?」
自分とリナの父・・・舞台こそ同じ『戦争』であっても・・・・。
「ま〜な・・。同じ物語でもオペラにミュージカル・・悲劇に喜劇がある・・・。
そんなモンだな・・・」
今度こそ彼はしっかりした口調でガウリイの質問に答えるのだった。
「アイツは・・・昼寝が生きがいだったな・・」
随分間抜けな感慨を言っている・・・・。
その自覚は彼としても十二分にある。
まあ・・・知った事ではない・・・・・。
そんな素振りをガウリイがする事を彼は予期していたのだが。
「・・・・・それ・・知りたいもんだな・・」
考え込んだようにガウリイは彼にそう告げるのだった。


「嫌いな事は空腹、眠たいの・・・そして・・・寂しいの・・」
本を読みながら彼女はそっと呟いた。
紅茶に浮かんだレモンを面白く無さそうに掴んで・・・角砂糖を入れる。
「すまないな・・・リュクレース・・」
傭兵家業から帰って来た彼を迎えた妹の一言。
家に居るのはほんの僅かな時間しかない兄と・・・何時も召使と友達数人に囲まれな がらも寂しい生活を送っているこの妹・・・。
寂しそうに揺れるワイン色の瞳・・・・。
「だからね。私は何時も・・・目を閉じていれたら幸せだわ・・」
何処か嬉しそうに微笑んでいる妹が悲しかった・・・・。
自分は何をしちるのだろうか・・・・???
そんな疑問が頭を過ぎる事ははっきり言って多々である。
「他に・・お前の好きなものは・・・??」
何とか彼はそう言葉を発する事できた。
「綺麗な宝石・・美味しいお菓子・・そして・・・」
彼女はそこで再度言葉を切った。
言葉に出来ない痛い心の部分・・・・。
そんな感覚があふれ出ている事にどちらかと言えば無粋な部類に入る彼の感性でも気 がつかないわけでもなかった。
だが・・・・。
このリアリストである性分では彼女に気の効いた言葉をかけてやることなど 不可能に近かった。
はあ・・・・・。
重苦しい溜息をこの妹にはけっして気付かれないように彼はついた。
これは・・・反対するつもりではいたが・・・。
「叔父上にお前の事で呼び出されている・・・暫く待っていてくれるな・・・?」
何時に無い優しい笑みを彼女に向かって向けることが精一杯。
「お待ちしていますわ・・」
美しく・・・そしてはかない微笑でもって彼女はそれに答えた。


「待っていたぞ?お前・・・」
決してこの父親であるロードに彼は名前で呼ばれたことは無かった。
それが何を意味しているのか理解してはいなかったし、ましてやするつもりも無かっ た。
「・・・あの事のお返事に参りました・・・・」
「受けてくれる。あの子はそう言ったのだな・・・?」
ロードは未だに頭を下げたままの彼に満足そうにそうとだけ答える。
が・・・・。
「いいえ・・・・」
この彼の言葉には意外そうに・・・カップに注いでいた紅茶から目を背け、初めて此 方を凝視するに至った。
「・・・・と、言うと・・・・??」
本当に疑問そのものだ・・・そうその彼と同じ色の瞳は告げていた。
どうやら・・・今の今まで気がつかなかったがこの父・・・いいや。
ロードは軍事センスあれども政治センスは皆無のようである。
まあ・・・彼としてもそれなりの政治、商業のセンスは自分でいうのもナンだがそれ なりに持ち合わせているという自覚はある。
最も・・・それを発揮しようなんぞは微塵も思ってはいないのだが。
まあ、そんなことはそれこそどうでもいい。
「・・・・疑問に簡潔にお答えしてしまえば。私の一存。それだけです」
・・・本当に簡潔な答えだ・・・。
それこそ言い出して自分が呆れてしまうくらいに。
こんな事を言うためだけに自分は眠たい目をこすってここまで来たのだろうか?
今更ながら滑稽という二文字が頭の中でグルグルと回転しだしてしまう。
「お前の一存か・・・・まあ・・・その点は問題ないのだが・・・」
彼女の意思は尊重しない。自分の利害・・・か・・・・。
少しカっとくる感情が芽生えたが彼はあえてこの男の事は何も言えやしない自分の所 業に唇を噛締めた。
そしてやはり感情を押し殺した声で尋ねる。
「何か・・・それ以外に問題でも発生なさったのですか・・・・?」
とりあえずこの男の頭を悩ませているであろう問題点には興味はあった。
我ながら性格が悪いが・・・それなりに意見すればそれなりに地位も向上する。
自然の摂理、という生き残りの手段である。
そんな彼の魂胆に気付く事無くロードはアッサリとこう答えた。
「セイルーンの妨害だ。あの大国。この国の小さき一介の貴族の婚姻に何が悲しくて 介入してくるのやら・・」
ふうっと溜息をつきながらロードは呟いた。
「・・・セイルーン・・・ですか・・・」
それは確かに妙な話だった。
いかに傭兵隊長の家・・・認知されない国僭主の庶子の婚姻・・・・・。
そんなモノにあの大国が介入するなどまったくもってこのご時世では考えられない事 である。
それがもっと大国の嫡出・・・10000歩譲ってこれまた認知されないそれなりの 財力を持つ非嫡子の王女の結婚なら話はまだ分かる。
だが・・・・。
「何故セイルーンの国王は俺の妹と・・・・大した権力ももたないセイルーンの近隣 国・・・・ええ・・っと・・」
「・・・エルメキアだ・・・」
「そのエルメキア帝国のたかだかアルバ公爵風情との婚姻に介入を??」
妹を嫁がせようとしている公爵の家のある国名すら知らなかった。
凄まじい後悔が胸の奥にこの疑問さえなければこみ上げてきた事は疑いないだろう。
「だから私も困っている・・」
頭を抱えたようにロードはそう彼に打ち明けた。
「・・・まあ・・・その点は・・何とかしますよ・・・」
エルメキアとは彼にとってもかなる都合のいい土地柄だった。
妹を嫁がせるとき、自分がついてやってかの土地まで行くのが一番いい方法なのだ が。
流石に職業柄、そう言うわけには行かなかった。
セイルーンの介入もその点を踏まえての事柄であることはあからさまであるが。
幸か不幸か、『この家業』をやっているならでわの情報も彼は既に握っていた。
あまり表立って動く事は無い・・・『勇者』の家系の暗殺者・・・・。
何が彼らをそんなことに駆り立てているのかは知った事ではない。
だが・・・。
かの伝説の『魔剣』がその一族に不協和音を起させせて居る事は疑い無い事だった。
・・・・その連中を上手く利用して妹の輿入れを警護させれば問題は無いだろう。
幸いにして金ならいくらでも支払う事が可能な情況に自分はある。
「・・・・まあ、俺が何とかしましょう・・・」
この結婚で妹の寂しさが紛れるのなら・・・・。
彼女が少しでも幸せになることが可能なのなら・・・・・。
この際リュクレースの意志は彼には一切合財関心の対象外となっているのであった。
・・・・無論・・・良心の呵責が一切無い・・・と言えば嘘になるが。


「お兄様・・・お別れですね・・
」 少し寂しそうに彼女呟く。
別れの朝、ついに妹は己の意志を完全に封じ込められた形で知りもしない他国に嫁ぐ 事になった。
結婚の条件は持参金の事以外に何も聞かされてはいない。
恐らくは『私生児』と言う身分がネックとなったのだろう。
かなりの金額をふっかけられたがそれは彼にしてみれば準備できない額ではなかっ た。
もっとも・・・小国なら3〜4は買えそうな程の額・・と世間一般では言うらしい が。
生まれながらに金にだけは不自由した事の無彼にはあまりそんな実感は生まれなかっ た。
「ああ・・・そうだな・・・」
何か少し寂しそうな眼差し・・・。
何故だろう?もうこの娘は寂しい思いをしなくて済むというのに・・・?
無粋な彼には何も理解できなく。
そしてこの妹を理解してやる事すら出来なかった。
それが出来ていれば・・・彼の死ぬほどの後悔は決して訪れはしなかっただろう。
「・・・そろそろ出発の時間です」
エルメキアの傭兵・・・・彼が雇った『ガブリエフ』一門の男・・・。
黄金の髪に明るい色の瞳が印象的な美しい男だが。
何処か近寄りがたく・・・そして冷たい雰囲気を醸し出していた。
「・・・ああ・・・わかった・・・」
行け、妹に無言で彼は視線だけでそう指図した。
すっく・・・とリュクレースはスカートの端をつまんでセイルーン式の優雅な礼儀作 法を兄の前に疲労する。
たれ下げた頭からストロベリー・ブロンドの髪が悲しげに揺れた。
「お別れですね・・・」
そうとだけ言い残し、リュクレースは黄金の首飾り・・・元々彼のものだったがこの ところ何処かに紛失したと思い、諦めていた品を彼の手に握らせた。
「・・・・・リュク・・・」
既に妹は此方を振り向く事無く・・・黄金の髪の男に導かれ消えていった。
ふっと・・・・・・・。
この黄金の髪の男と妹の姿から・・・何かのヴィジョンが見えたような気がした。
この二人ではない・・・だが・・・その特徴を受け継いだ誰か・・・??
まさかな・・・・・。
そんな甘い考えを打ち消しながら彼はさっさと家の中に戻る決意をした。
このままココに居たら・・・自分の弱さが露呈する。
それが完全なオチだった・・・。
せめて大切な相手の前では悩んだツラなんかは見せるべきではないだろう?
苦悩の中、彼が勝ち取った結論・・・・・。
「悲しすぎる・・・」
といってくれる人物は・・・・いるのだろうか・・・????


「父上・・刺客は・・・?」
少々荒っぽいやり方で気には食わなかったが・・・父国王の命令では仕方が無い。
黒い髪・・・どちらかと言えばむさくるしい容貌のセイルーンの王子はそう父王に尋 ねた。
「・・・全滅だ・・・フィリオネルよ。お前があの娘さんの兄の懐柔に成功していれ ば・・・」
悲痛の叫びをあげつつ・・黄金の髪の護衛たった一人によって壊滅させられたセイ ルーン騎士団の冥福を祈る国王。
「では・・・リュクレース殿は・・・・????」
「・・・アルバ公爵は高額な持参金を払う国王や領主の庶子と婚姻し・・・。
その持参金、支度金・・更には分与財産を奪い・・・彼女らを平気で殺す・・・。
魔術の実験、毒薬の実験・・・彼女はその8人目の妻にして・・8人目の被害者だ・
・・・」
そして・・・その証拠は残らない・・いいや・・・。
強いて言えば『都合の良い様に』と国王や領主には黙認させている犯行・・・。
「また・・・救ってやれなかったか・・セイルーンの力を持ってしても・・」
王子フィリオネルは歯噛みした・・・・。


「・・・リュクレース・・・!!!リュクレース!!!!!!!リュクレース!! !」
彼の凄まじい慟哭が夕闇の空・・かすかに聞こえてきたよな気がした・・・。






1へ 3へ
BACK





本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース