カンタリスの残り香・1








「・・・幼い頃からあまり人によって愛情をかけられなかった人間。
それはループのように歴代に続く・・・それを打開するには・・・」
お前も不幸だったな・・・。
・・・何が・・・なのです・・・?
屈託無く答えるそのカオに思わず胸が痛んだのは気のせいだろうか・・・?
今までそんな事、考えた事すらなかったのだが。
何でも無い。
そう素っ気無く言い放つのが今の自分に唯一できる事柄だった。
・・・・すっかり忘れ去っていた事・・か・・・・。
苦笑して彼は騒がしい中庭に出て行くのだった。


「一寸!!それえ、!アタシの肉よ!!!」
「はへ・・?じゃは・・・くうは??(へ?じゃあ、食うか?)」
「いらないわよ!!ンな唾ついた肉!!!!」
そう言い放つと同時にリナはガウリイの頭を思いっきりドついてやる。
「どうでも良いけどリナさん・・・そのスリッパ・・・」
「私がリナの10回目の誕生日にあげたんです」
アメリアの質問にとんでもない返答をアッサリとカマすルナ。
「どうでも良いが・・・もう少し静かに食えないのか・・・???」
「食事は煩いくらいがちょうどいいの!!!」
滅茶苦茶なリナの返答にいとも簡単にこの話はお開きとなる。
「まあ・・・リナさんのご自宅ですし・・・けど・・・リナさん・・・」
「何?」
ゼル、アメリア、それにシルフィールがリナの両親の結婚記念日に呼び出されたのは
つタ旅路の距離も考えて一週間前の事だった。
まだ肝心の主役は現れては居ない。
「まあ、適当に食べててね」
・・・ルナのこの一言で適当所か既に争奪戦の焼肉昼食会が先ほどから開かれている のだが・・・。
シルフィールが思ったことはアメリア、ゼルもまったくもっての同感であることは言 うまでも無い。
「リナさんの実家・・・真坂『メディシス』の家系・・だとは思いませんでした・・
・。まあ・・・魔道なんてやっていらっしゃるからにはそれ相当の財力はある家系・ ・とは思ってはいたんですけど・・・」
少し遠慮がちにシルフィールが言う。
「・・・・ま〜〜ね・・母ちゃんの実家で・・すっごい傍系だけどね・・・」
苦笑混じりにリナはそう呟く。
さしあたり自分の家『インバース』がしているのは『メディシス家』のチェーン店の 一介にあたる雑貨店程度なのだが・・・。
隠されたその財力は並大抵のものでない事は簡単に見て取れた。
単なる『市民』の身分でありながら『富の王者』として権勢を振るう一門。
それが『メディシス家』である事は世界各国の知れ渡った事実だった。
無論、政治に対する発言権も相当なものである。
もっとも・・・リナやその家族を見ていると・・・。
そんな生まれを享受している雰囲気は微塵も見当たらないだけになお更・・・。
「ま・・・お前のその智謀に長けた性格は・・確かに小商人のものでは無い・・・・
とは思ったが・・・」
ゼルの言葉に苦笑しつつリナは・・・。
「褒め言葉と受け取っておくわ・・・」
軽くそう答える。
「でも・・・リナさん・・なんで黙ってたんです〜〜〜??」
それでも納得がいかないらしいアメリアが更にずずず・・と食いついてくる。
この娘・・・・。
好い気になって輸入品の高価なビール・・・ワインなどが主に飲まれる温暖なセイ ルーンでは北方の酒は珍しいらしい・・・・。
まあ・・・これはどちらかといえばフィルさんの趣向もあるんだろうけど、さしもの アメリアもこれは滅多に飲んだ事が無かったらしい。
そんな訳で三杯目のジョッキに手をかけつつ彼女はずずず・っとなおもリナに詰め寄 る。
手におつまみのウィンナーを持っているのもご愛嬌。
しかし・・リナはそんな気迫迫るアメリアにも慌てず、騒がず、ゆっくりと・・・。
「あのねえ・・メディシス家といえば・・・。かなりの権勢を誇る王族・・更に言え ば『スィーフィード』の神殿なんかにも『金』を貸してるのよ?
ましてやメディシス 家絶頂期の当主の暴言、知ってる?
『私は赤の竜神にすら金を貸している!!』よ・ ・・?
あんた・・旅の間中アタシにそ〜んな事言われたい?王族として・・・??」
「う!!!!」
さしものアメリアもこの攻撃は嫌だったらしい。
カオを顰めてウィンナーとビールを両手に持ったまま硬直する彼女。
「ま・・まあ・・ご時世ですし・・・・」
取り成すようにシルフィールが言うそのすぐ傍で。
「だが・・・殺伐としている事は事実だろ?各国はこの一族の融資が無ければ戦争す ら出来ないほどその富は絶対的・・・。
各国の戦争絵図は絶世期にはこの一門が独占 したと言っても過言ではないな・・・」
非難するつもりはないだろう・・・。
しかし、ゼルは率直に・・・淡々と意見と事実を語る。
「・・・つまりは・・・・」
ボソリ・・・・・・。
今まで難しい政治や経済の話には一向に感心を示さず・・・・。
只ひたすらどっから持ち出してきたのだろう?
今まで肉を焼いていた鉄板に焼き蕎麦 を広げ、菜箸でソースと海老とホタテと烏賊と混ぜ。 シーフード風味に仕立てようとしていたガウリイが口を挟む。
「俺達傭兵の本家大本の雇い人・・・って訳か・・・」
底知れない口調でアッサリと・・・その恐ろしいが紛れも無い事実をガウリイは言っ てのける。
暫く一同の間に気まずい・・とも戦慄を交えたとも思える沈黙が支配した。
が・・・そんな状態は一人の人物の登場によっていとも簡単に打ち破られた。
「焼き蕎麦つつきながらシリアスなこと言いやがっても・・様になんね〜〜ぞ?
このボケが!!!」
其処に居た人物は言うまでも無い。
「よ!主役のオッサン!!」
なおも皿に盛ったシーフード焼きそば(ガウリイ自作)を後生大事に抱えながら軽く 片手をあげて挨拶するガウリイに・・・。
「オッサンというなといっとるだろ〜〜が・・・この天然があ!!」
毎度お馴染みにもお馴染み過ぎるこの言い合い・・・・。
「ああ・・・仲がいいんだか・・悪いんだか・・・」
頭を抱えつつリナはガウリイ自作の焼き蕎麦を断りも無く自分の小皿に盛って食べ始 めた。
「ま・・・それはさて置き・・俺も昔は傭兵なんぞしてたし・・思えば数奇な人生だ ぜ・・・娘もこんなの・・・」
何かを言いかけたオヤジにリナ&ルナの痛いまでの視線が突き刺さる・・・。
「リナ・・父さんから旅の餞別に貰った黄金のペンダント・・・ちゃんと持ってるわ よねえ〜〜」
にっこりとリナは妹に微笑みかけ・・・。
「勿論よ!姉ちゃん!!『旅先で変なヤローに出会ったら之使えや!!』って・・ ・。
傭兵時代に愛用してたっていうあの綺麗なペンダント!!
血走った目で渡してくれた もん〜〜〜〜!!
まあ・・・ついでに言っちゃえば・・どっかの『自称保護者』!! 出会いがしらは随分腹たつ兄ちゃんだと思ったし・・何度手が伸びたことか・・・。
あ、大事なものだから今は荷物の中に入ってるわ!!」
いうなりリナは自分の部屋のほうの・・・そこに置いてあるまだ解かれていない荷造 りの方を指差した。
「リナア〜〜〜〜〜!!!」
ここに至ってようやく泣き声の混じったガウリイの声と。
「ふ!!さすが私の妹ね!!」
っと・・勝ち誇ったように呟くルナの声が重なった。
「ま・・・・まあ・・・いいや・・俺は釣りにいってくる!!」
完全に形勢が不利と悟ったオヤジはさっさとその場から逃げ出す決意をするのだっ た。
「・・・・リナさん・・・・あのペンダントって・・・?」
「・・・一寸イワク付きでね・・って・・シルフィール!!どったのお!!?」
アメリアの質問に苦笑しながら答えたリナの目に入って来たものは・・・。
頬を赤らめ、ぼ〜〜〜っとしてるシルフィール・・・。
無論彼女もリナの絶叫に気がつかないわけでは無かった。
「リナさんのお父様って・・・リナさんのお父様て・・・」
っと・・・うるうるした瞳でぼ〜〜〜っとしていたのだが我に帰る!!
「あああ!!私!!なんという事をお〜〜〜!!リナさん〜〜〜!!ごめんなさい! !
ごめんなさあああ〜〜〜いいいいいいい!!!!」
「・・・べ・・・別い〜〜けどね・・・(汗)」
かくして・・・。
「あああ〜〜〜〜!!リナ!何時の間に俺自作焼きそば食った〜〜〜!ああ・・・ア メリアまでええええええええ!!!!」
「煩い!!もたもたしてるあんたが悪い〜〜〜〜!!!」
「独り占めは悪です!ガウリイさん!!!」
「・・・・やれやれ・・・・・・・喧しい連中だ・・・」
かくして。
今日もこの連中は賑やかである・・・・・・・・・。
釣りに逃げ出した親父は苦笑しながら家の方向を振り返るのだった。
妻も妻でまだまだ暫くの間かえってくることはないだろう。 結婚記念日・・・と言うわけで本家や分家の連中にあいさつ回り・・と言ったところ か。
無論そんな堅苦しい事にいかに愛妻家(苦笑)とはいえ彼は付き合うのは御免だっ た。
やれやれ・・・・・・・・・。
湖の辺にたどり着き・・・彼はやっとの事で一息ついた。
昔のことを思い出すのは久しぶりである。
豪商の娘に一介の下らない傭兵・・・・。
そんな二人が出会ったことは運命でも何でもない。
それは勝手に決められたこと・・・・。
しかし・・・・・・・・・今では・・・・・。
そんな感情に捕らわれながら彼は過去の事を思い出すに至った。


「手足となる人間が必要なのだが・・・?」
即ちは傭兵の勧誘・・・と言ったところか?
あ〜〜ああ・・・面白くないな・・・・。
それが若い彼が思った何時もの出来事だった。
この地方じゃそれなりに名士のインバース家。
その素性は至って簡単・・・・『傭兵隊長』などというやくざな家業をしている
一族である。
そして・・・並み居るライバルは策略、謀略でいとも簡単に陥れてきた。
彼はそんな父の・・・と・・言っても彼の父はこの国の曲がりなりにも『領主』であ る。
表立って『父』と呼んだことは一回たりとも無かった。
俗に言う爵位の無き貴族、さしあたっていうなら『臣籍降嫁』と言うヤツである。
彼は王族の血すらひきながらもその『王位継承権』は完全にはずされていた。
母親の顔は知らない。
生まれてすぐに引き離され・・このインバースの家の養子に出されたのだ。
もともと先日死んだ養父はこの領主の片棒を担ぐ傭兵隊長にして腹心・・・。
周囲の権謀術なら身をもって彼は見尽くしているのだった。
そんなバックアップの元に生を受ければ・・・・。
若くしてこの家の新たなる主人になった彼に失うものは無く・・・。
むしろ得るものの方が遥かに多い人生である。
だが・・・満たされない・・・・。
そんな感覚が無いといえば大嘘になってしまう事は事実である。
まあ・・・そんな感覚は忘れるに越した事はないのだが・・・・。
胸元にゆれる黄金のペンダントが青灰色の瞳、黒い長い・・・腰のあたりまで波打つ 髪に映えていた。
「それも単なる『人手』ではない・・・」
この傭兵を束ねる傭兵隊長の家に依頼を持ち込んだこの男・・・・。
何者であるかなどは本当にどうでもいいことであった。
彼とは似ても似つかないむさくるしい顔立ち。
年のころなら彼よりも二つか三つ年上といった所であろうか?
まずは信じられないほどの報酬が渡された。
「・・・・どう言う事だ・・・???」
悪い話ではない事は請け合いの事実。だが・・・・。
こんな美味い話に『裏』が無いなどと言われればそれはとんだ嘘となってしまう。
さしもの彼・・いいや・・・。
幼い頃からこんな情景を知っている彼だからこそ・・・・・。
そのことを見越してあからさまに不審の念をカオに表しながら男を問い詰めた。
「私の身分については・・・できれば尋ねないで欲しいのだが・・・」
少々困惑したような声で男は彼にそう呟いた。
・・・・ムシのいいことを言うやつ・・・・
そう言った感慨を抱きながら彼は再度男をよくよく凝視した。
成る程・・・確かにそうかもしれない。
容貌こそはむさくるしい顔立ちをしているが・・・・。この男。
変装をしているつもりかもしれないがその服装は極上の品質の衣類である。
更に言えば指にも一般市民には到底手の届かないような指輪・・・・。
そして何よりも『世間知らず』・・・・。
この言葉が何にもまして似合いそうな思考形態をしている事実がある。
ま・・・こんなむさくるしい男に『世間知らず』なんて言う言葉を好き好んで使いた くは無い・・・・・。
そんな自分の考えに思わず彼は錆付いた苦笑を浮かべそうになるのを辛うじて堪え た。
が・・・その魂胆は何処と無く見て取れた。
「・・・俺を懐柔しようってか・・・?それは無理な話だな・・」
アッサリと彼はその一言を放ってやる。
この『傭兵隊長』という地位につく以前にも彼はやはり戦場に立っていた。
そして、その『悪名』はそれなりに世間にまかり通っている。
その自覚は十二分に持ち合わせていた。
『傭兵隊長』として正式に即位してしまった今、その評判は尾ひれがついて世界中に 伝わっている・・・。
そんな事実は容易に見て取れた。
そして・・・この国のロードと彼のつながりを知るものは・・・ほぼ皆無である。
『懐柔』・・・・そんなことを考えて彼に近づく王国、貴族が遅かれ早かれ現れるだ ろうとは予見していたが・・・。
真坂ここまで早いとはなあ・・・・・。
自分でも信じられないほどあっけらかんとした見解。
まあ、もともと物事に感じ入る性質だったのを無理やり傭兵になるためにドライにプ ロテクトした自覚はある・・・のだが。
「そうか・・・邪魔をしたな・・・」
彼の予想に反して『懐柔』を試みようとした男はアッサリと席を立っていった。
キラリ・・・・・・・・・。
輝く胸元の黄金のペンダントに目を走らせるが・・・。
手を伸ばすほどではなかろう・・・・。
彼はそう判断し・・何も手出しする事無くこの退室しようとする男を珍しく静かな眼 差しで見送った。
「・・・このままこんな道を走らせるのは・・・確かに惜しい人物だ・・・」
彼の耳にこの男が小声で言った言葉は届いてはいなかった。
・・・・何者だったんだ・・・???
好奇心・・・とも疑問・・・とも思える感情こそ残されたのだが。
これ以上面倒なことに巻き込まれるのは彼としても御免蒙りたかった。
これが・・・彼と・・さる『大物王族・・・』
後々の腐れ縁となる人物とのはじめての出会いであった・・・・・・。


「お兄様・・お客様でしたの・・・?」
朝遅いこのたった一人の肉親である妹・・・・。
散々依頼人を迎え入れるのに大騒動だったのに今の今まで眠っていたらしかった。
サラリ・・・・・・・・・。
濃い・・栗色に近いストロベリー・ブロンドの髪がその肩から零れ落ちる。
「・・・リュクレースか・・・」
余りにも馴染みといえば馴染みの気配に彼は思わず緊張感が溶ける。
黄金のペンダントの裏面・・・。
目的があるとき以外絶対に開かないそのフタに施された精密画の彫像。
その女性にそっくりなこの妹・・・・。
だが、そんな感慨に彼は一瞬たりとも浸っている事は許されない身であった。
「ええ。お兄様・・・リュクレースですわ・・」
にっこりと微笑みながら彼女は兄にそう告げる。
ありのままの事実・・・彼女の世界は一切の欺瞞や嘘、偽りから引き離されているの だ。
いずれ・・・この無垢な少女も恐ろしい世界に巻き込まれていく。
心が痛いことでもあり・・そしてそれは避けられない事でもあった。
何はともあれ、彼はふっと重く溜息をつき、持ち合わせていたタバコに火をつける。
彼女は僅かに顔を顰めたが・・・何も言いはしなかった。
ただただ従順な視線で兄を眺めている。
「・・・・言いたいことは・・・??」
妹の視線に気付き、あえて意味も無いことを尋ねてみる。
「お体に・・よろしくありませんわ・・・・」
それだけか・・・・・。
一瞬ながら胸に凄まじい虚しさと悲しさが生まれ出る事を彼は感じた。
まあ・・・これも仕方が無い事だ。
彼女は生まれたときから『人形』として育てられたのだ・・・・。
何を思い・・そして何を感じているのだろう・・・・?
それでも自分を慕い、自分だけしか残されていないこの少女・・・・・。
無言のまま座り込み、彼は手短にあったリュ―ドを取り出す。
悲しいまでに美しい旋律・・・。まるで・・・。
これは全ての鎮魂歌・・・・であるかのように・・・・。






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