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『連鎖』
男の足がピタリと止る。ポムッと手を打ち、随分スッキリした顔つきで、彼は口を開いた。
「わかった、」
前を行く背中が振り返った。きょとんとした瞳。紅に近い茶色のそれ。動作に合わせて背中で踊った髪は栗色。 彼女の名はリナ=インバース。相棒との旅の道中であった。
足を止めた彼、ガウリイ=ガブリエフ。なかなかのハンサムである。 実際はかなり整った顔立ちなのだが、そのうすぼんやりした惚けた表情が、美形度を下げている。
「何よ突然?」
外見通りの可愛らしい声が、彼に届く。
「ん?いや、この辺さ。なんとなく変な感じがしたんだよ。なんていうか懐かしいような・・・」
「1回通った事があるんじゃないの?あたしと会う前に。ま、物忘れが激しいおつむなんだから、覚えててもその程度よね」
いつものごとく、彼の脳みそについて軽口をたたいた。ところが、ひどく真面目な視線に捉えられ、彼女は口をつぐんだ。
「そうじゃなくてさ。どことなく似てるんだ、この道。お前さんと初めて出会った、あの道に」
彼女の大きな瞳がさらに大きくなる。
「はいっ?似てるって・・・・・道なんてどこも似たようなもんでしょーが。第一あんた、そんな昔のことはっきり覚えてるの?」
「覚えてるよ、はっきりと。あそこが俺の、運命の分かれ道だったから、な。忘れられないんだ」
照れくさそうに頬をぽりぽりと掻きながら、彼は微苦笑を浮かべた。
その笑顔に、彼女は背を向けてすたすたと歩き出す。 彼につられて照れてしまい、熱くなった頬を隠す為に。
無言で歩き出した彼女を追いかけて、彼も歩き出す。
しかし、早足で歩いていた彼女がいきなり足を止め、彼もまた彼女に倣う。
すいっと、彼女が動いた。
後ろ向きのまま移動した先は、彼の真横。
「あんたと会ってもう3年になるのね。もう3年に・・・・・。 これからも、ものすごい速さで時間が流れていくんだと思う、あんたと一緒だから。でも・・・」
沈黙に居心地の悪さを感じ、一旦言葉を切る。 それでも勇気を振り絞り、彼女はもごもごと口を動かした。
「あっという間に時間が過ぎちゃうんじゃ、勿体無いもんね。色々とそのう、やりたいこともあるわけだし、だから・・・」
だから、と言って彼女がとった行動。
囁くような小声でつぶやいた彼女の右手が、彼の左手に触れる。恐る恐るといった様子で握ってくる小さな手を、大きなてが握り返した。
そして二人同時に歩き出す。
上からでは、俯いたままの彼女の表情は確認できない。 けれど、その顔が真っ赤になっていることを確信しながら、彼もまた幸せそうなはにかんだ笑みを浮かべたのだった。
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