僕らは“記憶の足跡”を辿って旅している。



かつて、目的があった。
それはボクの兄であり、永遠の勇者と人々に崇められた人のあだ討ち。
敵は、魔物を凶暴化させたと言われている、すべての魔物を統べる竜の王・ディアボロスだ。
彼の居場所は“異世界”だった。
ある方法でなんとかそこに辿り着き、ディアボロスの死を確認した。
そして真の敵に出遭い、僕はまた、最愛の人を失った───……


と、思っていた。なのに。


“彼”は生きていた。数日間は、泣きっぱなしだった。
あらためて僕は、女として彼に出逢ったのだ。やっと出逢えた。



彼と僕はイビスの草原の風に吹かれながら、誓った。
もう二度と、離れないと。それはあくまで、“仲間”という範囲のことでだったのだけど。
そして、一時は破れた約束を、果たすことに決めた。
もっともっと、世界を見てまわる。ふたりで。
まずは、ふたりで今まで見てきた世界を、もう一度振り返ろうということになった。
異世界に旅立ったここから、幼い僕らが歩んできた道を帰っていくのだ。
それを“彼”は、いつものようにカッコつけて、【記憶の足跡を辿る】なんていうことを言ってた。
でもどうせそのコースを行くのなら、今まで逢った人たちの町に立ち寄り、また会って話をしたい。
こう言い始めたのは僕だった。すごく、楽しそうでしょ?
いろいろと、報告するんだ。そして、ありがとうって言いたい。
今の僕らがあるのも、彼らがいたから。彼らの温かな言葉・励ましで、あそこまでいけたんだと思う。
“彼”にそう言ったら、くだらないって頭を撫でられた。でも、顔は微笑んでいた。
お前らしい、だって。“彼”らしくないよね。
だけど、嬉しかったよ。

そうして僕らは、今後の進路をひとつずつ決めた。

最初に訪ねるのは……そばかすの、あの子。





比較的平地に集まった家々が村を成す、この集落。
まだ少ししか時間が経ってないのに、妙に懐かしいなぁ。
これから、訪れる町は……全部、“イリア”としては、はじめてなんだ。
「この辺はあったかいねー」
「早く涼しい地方にいきたいな……」
そんな風に消極的なことばっかり言って、いつも僕をがっかりさせる。
そういえば、アドビスは少し、風が冷たいとこだった。
僕は新調した上着を脱いで、腕にかける。
さぁ、たしかあの子の家はこの辺だったよなー……。
そうそう、最初に会った時はさ。
あの子、家族とケンカして、家から飛び出してきたんだよね。
でも今は、仲良くやってるに違いない。
僕とシオンは家の前に立った。
扉の前には小さな階段がある。それを上がって、軽くノックをした。
「はい……?」
扉を開けたのは、彼女本人だった。
僕を見て、目をパチパチさせる。
肩までしかなかった髪が、ほんの少しだけ、伸びたみたい。
でもあのそばかすは、相変わらずだ。
「誰……?でも、どっかで会ったような……」
「ラプラ、久しぶりっ!……で、はじめまして」
「あれ?もしかしてあんた……でも、え?」

はじめに僕らが訪ねたのは、ラプラっていう女の子。
彼女はね、イビスの草原に行く前に、コンディションを整えようと立ち寄った村の子なんだ。
この村では、アミュレットを名物にして、生計を立ててる人が多い。
でも実際にそれが作れるのは、十代半ばくらいの、純粋な女の子だけなんだ。
ラプラは、その生産者の貴重なひとり。
だけど、僕らが立ち寄ったとき、彼女はまだ、アミュレットを作れないでいた。
そのせいで、村の男の子たちにはいじめられるし、
家族にも、きちんとアミュレットが作れる子と比べられたりして……。
それというのも、ラプラの水嫌いのせい。
なんでもアミュレットを作るその儀式は、身体を水面に横たえなきゃいけないらしいんだ。
でも、水が怖いラプラは、どうしてもそれができなかった。

彼女に、君はスゴイんだよって。
その可能性をムダにしちゃいけないって、教えてあげたかった。
結局彼女は、自分の勇気でアミュレットの儀式を成功させたんだ。
自分のことのように嬉しかったのを覚えてる。
人には無関心だったシオンもそのときは珍しく、ラプラに説教してたもんだ。
あ、そういえば……。それを見て、なんか無性に腹が立ったことも、あったっけ……。

「よっ。ちゃんと仕事してるか?」
シオンは僕の前に進み出て、ラプラの鼻先に杖を突きつけた。
いきなり登場したシオンと、僕を見比べて、ラプラは怖々と呟く。
「シオン……ってことは、やっぱりあんた……ウリック」
「そうだよ。いきなり来てごめんね、ラプラ」
「でも……ウリックは男の子だったよね?あれ?記憶違いかな?」
すっかり混乱して、顔をしかめるラプラ。あらら、やっぱびっくりさせちゃったな〜。
「本当は女でした☆ごめんね、ウソついて」
「ウリックだ……」
笑いかけると、ラプラは急に僕の肩に掴みかかってくる。
「その、きらきらした目!忘れてないよ……あんたのその目が、私に勇気をくれたんだ!!」
「ふわっ」
「ウリック、久しぶり!ほら、何つっ立ってんの、あがってよっ」
「う、うん」

やっと、分かってくれたみたい。
そうだ。これから会う人は、みんな僕が男だって思ってるんだ。
ちゃんとウソついてたことを謝って、僕がウリックだってことを思い出してもらわないと
……う〜ん、大変。

「あんたも!一応、世話になったからね」
「一応とはなんだ」
言いながら、シオンも家の中に入ってくる。僕らは勧められた椅子に、並んで腰掛けた。
「まあ、いろいろ聞きたいことはあるけどさ……とりあえず、来てくれて嬉しいよ」
「僕も!ラプラ、アミュレットいっぱい作ってる?」
「ああ、そりゃあもう。何せ一番の若手だからね。いまや村中の宝物さ」
嬉しそうに微笑むラプラ。そっかあ、よかった。ちゃんと、みんなに愛されてるんだ。
「そういえば、私の第一号の作品!ちゃんと持ってる〜?」
「もっちろん!男のフリしてた時はどうしてもつけられなかったから……
戻ってからはずっとしてるんだ♪」
僕はそれをつまんで持ち上げ、ラプラに見せた。
はじめての成功の喜びがつまった、アミュレット。まだ、その輝きが失われることはない。
「そうそう!なんでまた、男のフリなんてしてたのさ」
うっ、来たか。
僕がもじもじしてると、代わりにシオンが口を開いた。
「このバカなぁ。自分が女で弱いから、兄ちゃんに迷惑かけちゃったって余計なこと気に病んで、

あんなしょーもないウソ突き通してたんだぜ」
ひ、ひどい言われ様……異世界でも、そんなよーなこと言われたような気がする。
そのシオンのからかい口調に、ラプラがぷっと吹き出した。
もうっ!少しはかばってくれたっていいだろー?
僕も今思えばバカだったかもしれないけど、
その当時はそれなりの考えや、悩みに悩んだことがあったんだいっ!
「ははは……っ。あんたのその顔ったら。そのままだねぇ。表情がコロコロ変わるとこ」
「え」
「こいつに成長は望めないな」
で、ふたりして、また僕を笑う。なんだよーー……しょうがないだろぉ。
「ごめんごめん、そんなに怒らないで。ありがとね、持っててくれて」
ラプラは愛しそうに、僕のさっき見せたアミュレットを眺めた。
これは、友達のしるしだもんね。絶対、なくしたりしないよ。

「今日は泊まっていくの?イリアが私と同じ部屋でよければ、シオンの部屋も用意できるよ」
「わぁ、いいの!?じゃあ、泊まりたい!」
「おっけー。じゃあご飯作ってくるから。夜は、旅の土産話楽しみにしてるよ♪」
気付けば、もう日が暮れかけていた。
立っていったラプラから視線を外すと、まだその後ろ姿を見つめているシオンが目に入る。

あ……なんか久しぶりに、胸がちくんってする感じ。

何故だろう?彼の眼差しがこんなにも穏やかなのは。




「へ〜〜〜っ……ズイブン怖い目にあったんだねぇ」
異世界での話を一通り終えると、ラプラはしげしげと僕を見つめてきた。
「でも、信じらんないよ。私たちの世界“オッツキイム”の裏側に、そんな世界があるなんてさ」
「僕も最初はそうだった。だけど、実際に行ったんだから!そりゃあもう気持ち悪い、

ドロドロした魔物がいっぱい……」
「ひゃ〜、おっかない!夢に出そうだからやめて〜」
笑いながら、ラプラはがばっと布団にくるまってしまう。
楽しいなぁ……僕、こういうのがしたかったのかもしれない。
なんていうか、少し夜更かしをして、女の子同士の語り合い?
独りきりで部屋にいるシオンには悪いけどっ。
「それはそうと」
ラプラはいきなり、僕の目の前に顔を突き出してくる。
「あんた、シオンとどうなのよ?」
「ど、どうなのって」
「しらばっくれんじゃないわよ〜!付き合ってるんでしょv」
へっ?それって………。
え!えっ、え、え〜〜〜〜〜っ!!????//////
「なっ何言ってんの!?僕は今まで男だったんだから、そんなことあるわけないでしょっ」
「あちゃ。聞き方を間違えた」
自分の頭をこつんとやった後、ラプラは改めて僕に迫る。
「イリアは、シオンが好き?」
「す、好きだよっ?」
嫌いじゃないもん。
少しの違和感を感じながらも、僕は言い切ってそっぽを向いた。
ラプラは楽しそうに、のどを鳴らして笑う。
「そっかあ」
うう。なんか恥ずかしい……。僕は、当然のこと言っただけなのに。
まだ自分でも知らない、自分の秘密を、打ち明けてしまったような感じだ。
「言っちゃいなよ。好きです、ってv」
「えぇ?そんなことして何になるのさ」
今更、だよ。それに、なんか恥ずかしい……。
「ふふ。じゃあ、そろそろ寝よっか。明日もいてくれるんでしょ?」
「うん……じゃあ出発は明後日の朝にするよ」
ラプラは手元の明かりを消して、布団に潜った。
「ではっ。おやすみー」
「おやすみ……」
その夜、思ったより早く、僕は眠りにつけた。
きっと、疲れてたんだよね……たくさん歩いて、たくさん話したから。



がたっ

ちょっとした物音に、目を覚ましてしまった。
やっぱり自分の家じゃなきゃ、本当に落ち着いて眠れないらしい。
とは言っても……自分の家だって、もうかなり空けてるからなぁ。
ぱかっと目を開くと、扉から誰かが出て行くのがちらっと見えた。
この部屋から出て行ったってことは……ラプラ、だよねぇ?
僕は身体を起こして、目をこすった。
もう、すっかり夜だ。草や木まで、風に吹かれながら眠っているような窓の外。
何をしにいったのかなぁ……?

ばたん

考えていると、隣からドアがしまった音がした。
続いて、廊下を歩く足音がする。
なんとなく興味本位で、僕もそっと、その足音が止んでから、部屋を抜け出した。


***************************************************

泉の近く。あの、儀式を行うところに、私と彼は立っている。
「ごめんね、夜中に。どうしても、内緒の用があって」
ビクビクしながら、話し掛けてみる。
私はイリアの目を盗んで、シオンを呼び出したんだ。
何のためにって?イリアのために決まってるじゃないか。
だけどいきなり部屋に訪ねられ、たたき起こされたシオンは当然、すこぶる不機嫌みたい。
鋭い眼光が、さらに今夜は憎々しげに光ってる……怖〜いっ。
「何だ。俺様は疲れてるんだぞ……ふぁ」
「ごめんったら。まず、聞きたいんだ」
あくびをしながら、空を仰ぐ姿。それが月明かりに照らされて、すごく神秘的に見える。
本当に、綺麗な男の子だな。私だったら、自分より綺麗な男の子と一緒にいる気になんてなれないね。

「イリアのこと、好き?」

唐突に、そう呟いた。あくびの途中で、大口を開けたまま、シオンはゆっくりこっちを向く。
まるで、驚いてあごが外れちゃったみたい。美形がマヌケな顔すると、こっけいだよね。
「な、な、何を……///」
「ごめん、当たっちゃった?」
つい、顔が笑っちゃう。そっかぁ、両想い……か。
「これ、あげるよ」
私はふところからひとつのアミュレットを取り出して、シオンに渡した。
「これ、お前が作ったのか……?」
「ああ」
「いい仕事してるな」
一応、この人でも人を誉めたりするんだ。
内心驚いていると、シオンはそれを見回した後、すぐに私に突っ返してくる。
「だが、いらん。俺様は男だからつけないぞ」
「何も、あんたにあげようってわけじゃないんだ」
私の言葉に少しムッとした顔をするけど、シオンはそれを握り締めた。
「あんたから!……イリアにあげなよ。あんたの力になりたいんだ」
「余計な世話を……」
少し、彼の色白な顔が、紅く染まっているような気がした。
そっと、握り締めた手を、下ろす。
「まあ、お前も人の世話がやけるようになったんだな」
「何だよ、子ども扱いしてさ。とにかく、うまくやれよ!」
私はそう言い残して、自分の家へと駆けて行った。
一回こういうのやってみたかったんだよね〜!
恋のキューピッドってやつ?かっこいいでしょ♪

私はそんな感じで、彼と秘密の接触をし。
自己満足に上機嫌で、少し家の前で、月を見上げていた。

部屋に戻るべきだったよ。

まさか、イリアがその光景を見ていたなんてね。

************************************************

聞きたい。けど聞けない。
昨日、ラプラとシオンが何話してたかなんて。
聞こうと思えば簡単なんだけどさ……。
なんか口に出した瞬間、涙まで溢れちゃいそうなんだ。おかしいよね。
「イリア、どうしたのー?それ、重い??」
一方なんだかご機嫌なラプラ。なんでだろう。
やっぱり、昨夜のことに関係があるのかな……。
別に、彼と彼女が話したって、何の問題もないよ?
だけど、僕に隠れて、っていうのが、かなり気になって、なんか少し腹立たしいんだ。
洗濯物を干すのを手伝っているものの……やっぱり家事だけで紛れるほど簡単な気持ちじゃないよ。
何に怒っているのかなんて、自分でも分からないけど。

そして、いつもと何にも変わらないシオン。呑気に新聞なんか読んじゃって……なんか親父くさい……。
ふたりとも、僕に聞かれちゃいけないようなこと話してたの?
なんてさ……ふたりが困ってるとこみたら、悲しくなっちゃうじゃない。

やっぱり、シオンはラプラのこと、好きなのかな……。

ずっと、心に引っかかってきた疑問。
思えば、最初にラプラに会った時から、それは僕の心の中にあった。
だっていつもシオンは、女と見れば絶対に
近づかない・触らない・関わり合いにならないの三か条を固く守っていたんだ。
男のフリをしているとはいえ、僕だけがシオンの隣にいられる女の子なんだって、
変な優越感を持ったこともあった。
だけどさ……ラプラだけは、なんか違ったんだ。
本気で、思いの丈をぶつけて。ラプラの心を動かしたのは、
最終的には僕なんかじゃなく、シオンだったのかもしれない。
そう思うと、ふたりは好き合ってるんだろうなって。
もちろんそれは、僕には関係のないこと。
シオンにはシオンの気持ちがあるし、ラプラにはラプラの想いがある。
でも、僕だって、本当は……。

そっか。僕、シオンが好きだったのかもしれない。

今、はじめて自分の気持ちに気付いた。
そうか。そうだったんだ。
だから……こんなに、悲しい。
「………っ」
「イリア……?」
顔を隠したけど、少し、遅かった。

「あんた、何泣いてんの?」



「すまないな。落ち着くまで、こっちで引き取るから」
「何か気にいらないことでもあったのかなぁ。だったら悪かったね」
そんな声の後、ラプラの足音が遠ざかっていった。
代わりに聞きなれた足音が、僕に歩み寄ってくる。
「こら。どうした、腹が痛いのか?」
「……そんなんじゃないもん」
「お前はすぐに泣くんだから!ダメだろ、ラプラに迷惑かけたら」

迷惑───────シオンの口から、そんな言葉が出るなんてね。
ラプラのため?それは、ラプラのため?

「心配してたから、後でちゃんと理由言っとけよ。
俺様には、言いたくなかったら言わなくてもいいから」
「言わない……もんっ。誰にも」
言ったらシオン、困るでしょ?ラプラだって。
迷惑かけちゃ、いけないんでしょ?
「へーへー。分かったよ」
シオンは僕の頭をポンポンと二度叩いて、僕の隣に腰を下ろす。
読書を始めたみたいだ。無機質な、ページと指の擦れる音が、定期的に僕の耳に入ってくる。
シオンとふたりだけの時間……当たり前に思ってたけど。
僕とシオンは、ずっと一緒にいられるんだよね?
僕以外の女の子、好きになったりしないよね?
もしそうなったら………早々と、約束違反なんだから。



「……リア、イリア!!」
「んぅ」
どうやら、知らないうちに眠ってたみたいだ。
目を開くと、シオンが僕を見下ろして、僕を呼んでるのが分かった。
「あ……シオン」
「もう夜だぞ?ラプラの部屋に戻れ、寝る時間だ」
シオンは強引に僕の腕を引っ張って、上体を起こしてくる。
なんとなくそれに従ったものの、言葉にまで従う気は、さらさらない。
「や……行きたくない……」
「あぁ?」
顔をしかめてる。わがままよく言っても、言われたことはないんだよね。
「お前、ラプラとケンカでもしたのか?」
「行きたくない……ここにいる……」
また僕の眠ってる間に、ラプラとシオンが会うのが嫌だ。
僕の知らないシオンを、ラプラに見られるのが嫌だ。
これからのシオンを……とられちゃうなんて、絶対嫌だ!!
「ここにいるっつったって……あのなぁ、お前分かってる?」
「ここで寝る。シオン、行かないで」

がばっ

「い……っ///」
大胆にも、僕はシオンの身体を抱き締めていた。
意識がもうろうとしてたからかな、そんなことできたのは。
「おい、イリア……?」
「シオン、聞いて」

───────言っちゃいなよ

ラプラの言葉が頭をまわる。
口に出せば少しはこの気持ち、自分でも分かるかな。
シオンは少しでも……僕のことを考えて、僕の側に長く、居てくれるかな。

「シオンが、好き」

その瞬間、彼の身体が強張るのを感じた。
自分がどんな重大な告白をしたのかも分からずに、僕は何度もそう繰り返した。
これが、自分が女だって告げたときと、同じくらいの大事な事実だって。
自分が女だって告げたときに、はじめて許された第二の告白だって……
やっぱり、分かることはなかったけれど。

「イリア、あの、俺も……」

僕が最初にあの言葉を発してから、どれくらい経っただろう。
小さく呟くシオンの声。同時に、抱き締め返された。
だけどそれがどういうことなのかも、理解できなかった。
結局知らない間に、僕はシオンの部屋で、朝を迎えたようだ。




翌日。空は、曇っていた。降りそうな気配だった。
それは、僕の心の中みたいに。ぐずついて、晴れない。
「じゃあな、ラプラ。頑張れよ」
「あんたたちもね」
僕は何も言わなかった。ラプラはなんとなく、僕が喋りたがってないのが、分かっているようだ。
シオンが代わりにラプラと激励し合って、僕らは別れた。
シオンはこれからも僕と一緒に居てくれるだろうけど……あの夜のことを、僕が知る日は。

来ない。

僕らは振り返らずに、ラプラの村を発った。
少し肌寒かった。上着を、シオンがかけてくれた。
変に優しいんだね。素直に喜べない自分が憎い。
このわだかまりは、今度はいつ、消えるのかな……。

「イリア、これ」

突然、目の前にアミュレットが突き出された。
これはきっと……聖なる力が込められた、ラプラの作品なんだろうな。
あの夜にもらってた……。
ちょっと待って。
なんで、僕にそんなモノ見せるの?
鼓動が高鳴る。どうしようもない怒りが込み上げてくる。
もう我慢できないよ……!
僕がマシンガンのように、文句を吐き出そうとしたそのとき。
一瞬早く、シオンの口が開いた。

「ラプラがお前に、だってさ。俺様から渡せって……いらん世話をやかれた」

……………なんだって?
これを?僕に?
てっきり、ラプラはシオン本人にあげたと思ってたのに……。
シオンの横顔が、少し照れてるのが分かる。だけど、それを楽しんでる余裕も、今の僕にはない。
じゃあ、僕は、とんでもない誤解をしてたってこと?
あの夜、打ち明けた僕の気持ちのために、協力してくれようとしてたの?

ラプラ………ごめんっ!

ダッ!!!

「あっ、おいイリア!!?」
僕は夢中で、村へと走っていた。
ラプラ、ラプラ………優しい友達。
あんな別れ方、嫌だよ!僕、誤解してただけなんだ!

「ラプラぁ!!」

雨が、降り出した。手には、シオンからもらった、アミュレット。
本当はラプラがくれた……アミュレット。

「……………イリア?」

家に入りかけていたラプラが、目を見開いて僕を見てる。
僕はそのままラプラを抱き締めて、胸の中で、泣いた。
「ごめんね、ラプラ!ごめん……っ」
「イリア……」
僕とラプラは雨の中で、いつまでも抱き合っていた。
ラプラは、僕がなんで泣いてたかなんて分からなかっただろうに。
ずっと、優しく頭を撫でていてくれたんだ……。





少し雨宿りをして、ボクの恥ずかしい誤解を、ラプラに全部話した。
シオンには内緒にしてねって、頼んでおいたんだけど。
そして、あのアミュレットのお礼をした。
「言っちゃったのか〜」って、ラプラは苦笑いを浮かべながら、
後からきたびしょ濡れシオンを見つめた。
そして改めて、出発。
日はだいぶ昇り、雨上がりの後の風が、涼しかった。



僕らは次の行き先を、記憶任せで相談しながら、歩いていく。
あえて昨夜のことについては、お互いに触れようとしなかった。
だけど、まだそれは、話し合わなくてもいいことだよね。
シオンはずっと、僕の側にいてくれるんだから。

虹が、輝く。僕らの前途を照らしてる。








*End*










春ナヲミさんのHPでキリ番ゲットして頂いちゃいました〜♪
このお話ね。
記憶の足跡っていうシリーズの一番初めなんですって☆
続きがひじょーに楽しみですよ!!

さてさて。
ラプラ嬢!!れいんこのコ大好きなんですよ〜〜!!可愛いし!
シオン様と似たようなコンプレックス持ってて、違う方向に動いたトコとかね。
ウリックって凄いな。
シオン様とラプラ。
両方とも自分が意識せずともすくえちゃったんだもの。

ナヲミさん!!
れいんを思わず絶叫させてくださるようなお話をありがとうございました!!




BACK








本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース